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埼玉、9月。森田恒夫は、自宅の書斎で古いカルテの控えを一枚ずつめくっていた。
「腎臓の数値、少し高め。お水を飲ませてください」
「療法食に切り替え」
「皮下点滴、週2回」
30年分のカルテに、同じ言葉が何百回も並んでいる。

ある一枚で、森田さんの手が止まった。
「この子は、よく覚えています。12歳の茶トラの男の子でした。飼い主さんは、器を毎朝洗って、水を1日2回替えて、ウェットフードにお湯まで足していた。それでも、健診のたびに数値が少しずつ上がっていく。飼い主さんは、診察室でいつも謝るんです。『私の世話が足りないんでしょうか』って」
「私は、『そんなことはありません』と言うしかなかった。本当に、そんなことはなかったんです。でも、じゃあ何が足りないのか。それを、私は言えなかった」
「診察室で一番多かった質問を覚えていますか、と聞かれたら、これです」と森田さんは言った。
「先生、点滴は、いつまでですか」
「答えは、いつも同じでした。『ずっと、ですね』。腎臓は、一度悪くなると戻りません。だから私は、30年間、同じ答えを出し続けてきたんです」
退職して1年。森田さんは、ずっと言えなかったことがある、と言う。
猫の慢性腎臓病で出るのは、療法食と、皮下点滴が中心だ。
どちらも大事な治療だと、森田さんは何度も繰り返した。
「ただ、はっきり言っておきます。これは、治す治療ではありません。進み方を、ゆっくりにする治療です」
アメリカのコーネル大学の猫の健康センターは、こう書いている。
「慢性腎臓病は進行性の病気で、決定的な治療法はない」[1]
日本のアニコム損保の資料にも、「一度失われた腎臓の機能は二度と回復しない」とある[2]。

療法食は、腎臓にかかる負担を減らすための食事だ。点滴は、体に足りない水分を外から入れる。
「点滴は、つまり、飲めなかった水を、針で入れているんです」と森田さんは言った。
「週に2回、キャリーに入れて病院に連れてきて、背中に針を刺す。猫も飼い主さんも、本当に頑張っている。でも、それは、なってからの話なんです」
「だから、治療を始めた飼い主さんに、私はいつもこう言ってきました。やめないでください。そして、心の中ではこう思っていました。その手前で、何かできなかったのか、と」
猫の病気の中で、一番お金がかかっているのは何か。
アニコム損保の『家庭どうぶつ白書2025』によれば、猫の診療費の24.5%は泌尿器のトラブル。全部の病気の中で1位だ[3]。
15歳以上の猫の30〜50%が慢性腎臓病だ、とも言われている[4]。
「おしっこの通り道が詰まって出なくなると、1〜2日で命に関わります[5]。特にオスの猫は、通り道が細くて長いので起こしやすい。これは、診察室で何度も見ました」
森田さんは、少し黙った。
「間に合わなかった子も、います」
では、飼い主さんが家で気づけることは何か。森田さんは、トイレの話をした。

トイレで見てほしいこと
トイレに入る回数が、前より多い
入っているのに、少ししか出ていない
砂の塊が、前より小さい
トイレで踏ん張っているのに、何も出ない
「最後のひとつは、すぐ病院です。ただ、その手前の3つは、毎日トイレを片づけている飼い主さんなら気づけます。そして、その手前には、もうひとつサインがある。器の水が、減っていないことです」
「猫は、もともと水をあまり飲まない」。飼い主さんなら、一度は聞いたことがあるはずだ。
それは本当だ、と森田さんは言う。
猫の祖先は砂漠で暮らし、水のほとんどを獲物から取っていた。だから今の猫も、とても濃いおしっこを出せる体のままでいる[6]。

「獲物の体の7割くらいは水です。昔の猫は、食べることで水を取っていた。のどが渇いたと感じにくい体のまま、今は乾いたごはんを食べている。だから、飼い主さんが思う以上に、水が足りていない子がいるんです」
「でも、残りの半分があります。猫は、水を嫌っているんじゃない。器の水を"避けている"ことがあるんです」
猫の鼻は人よりずっと敏感だ。ぬめりの残った水、止まったまま古くなった水を、猫は嫌がる。
器の前で止まって、においを確かめて、飲まずに離れていく。その子は、水が嫌いなのではない。
「その器の水を、飲みたくないんです」

ここからは、森田さんが「飼い主さんに言いにくかった話」と呼ぶ部分だ。
「まめな飼い主さんほど、器を毎日スポンジでこすります。それが、裏目に出ることがある」
プラスチックの器は、洗うたびに細かい傷がつく。
2025年に発表された研究では、プラスチックとステンレスを同じ条件でこすったところ、プラスチックの傷はステンレスの約15倍深くなった[7]。
同じ条件でこすったあと、表面のざらつきが増えた量
出典:Stallings ほか、2025年(Journal of Applied Microbiology)

「傷の中には、スポンジが届きません。洗ったつもりでも、傷の中にぬめりが残る。2日もすれば、また戻ってくる。飼い主さんは『洗い方が悪い』と自分を責める。違うんです。器が、そういう作りなんです」
「プラスチックのまな板を思い出してください。毎日洗っているのに、包丁の傷に沿って黒ずみが残る。漂白しても、しばらくするとまた戻ってくる。猫の器でも、同じことが起きています。違うのは、まな板は人が見て気づくけれど、器の水は猫が先に気づく、ということです」
猫の鼻は、人の何万倍も敏感だと言われる。人には分からないにおいで、猫は器の前で止まる。

「傷がつかない器にすればいい」。森田さんも、現役のころは陶器やステンレスのボウルを勧めていた。
「方向は、正しいんです。傷はつきにくい。でも、水は止まったまま。飼い主さんが仕事に出ている昼間、水面には毛が浮いて、ほこりが落ちて、水は古くなっていく」
ある飼い主さんは、器を4つに増やした。台所、リビング、寝室、洗面所。
「それでもその子は、台所の蛇口の前で、飼い主さんが水を出すのを待っていました」
「ステンレスのボウルも同じです。傷はつきにくい。でも、水が止まっていることは変わらない。器の素材を替えるだけでは、半分しか解決しないんです」

洗うほど傷がつく。替えても水は止まったまま。
残っている答えは、水を、流し続けることだ。
「毎日水を替えるのは、よどんだ池に、1日2回バケツで水を足すようなものです」と森田さんは言う。
「要るのは、池を、小川にすることです」
猫が、台所の蛇口や、お風呂場の床の水を飲みたがる理由も、ここにある。動いている水は、古くならない。

「飼い主さんは、『うちの子は蛇口が好きな変わった子だ』と言います。変わっていないんです。猫として、まっとうなんです。止まった水より、流れている水を選んでいるだけです」

「なら、給水器を買えばいい」。実際、多くの飼い主さんがそうしている。
森田さんは、ここで一度、話を止めた。
「給水器の多くは、プラスチックです。水は流れる。でも、プラスチックは傷がつく。部品が多くて、その隙間にぬめりが残る」
飼い主さんの声を集めると、同じ言葉が並ぶ。
「昨日部品バラして洗ったのに、1、2日後には細かいプロペラの隙間にもうピンクカビ」
「2ヶ月粘りましたが1度も飲みません」
(ネット上の飼い主さんの声より)
そこで森田さんが挙げたのが、器を選ぶ時の3つの条件だ。私たちは、これを「小川の三条件」と呼ぶことにした。
小川の三条件
① 器そのものが、清潔であること ── 猫の口がふれる面に、傷がつきにくい
② ろ過され続けること ── 毛やほこりが、水に浮いたままにならない
③ 水が、流れ続けること ── 飼い主さんのいない昼間も、止まらない

「1つだけなら、家にある器でもできます。3つが同時にそろう器は、ほとんどありません」
小川の三条件に合う形を探して、森田さんが最後に残したのが、ニャクアだった。
猫の口がふれるお皿と蛇口は、304ステンレス。プラスチックより傷がつきにくく、ぬめりが住みつく場所が少ない。
水は4層のフィルターを通り、循環するたびに毛やほこりを取る。
蛇口の形から、水はいつも落ち続ける。
「傷がつきにくいから、こすらなくていい。こすらないから、傷が増えない。毎日の手入れが、器を汚す方に働かない。ここが、プラスチックの給水器との一番の違いです」
「もうひとつ、大事なことがあります。猫は、自分の口が器にふれるのを嫌がることがある。ヒゲが器の縁に当たるのを嫌がる子もいる。ニャクアは、お皿が広くて、蛇口から落ちる水に口を寄せられる。器に口をつけなくても飲めるんです」
森田さんは、診察室で何度もこう聞かれたという。「どの器がいいですか」。
「30年、はっきり答えられませんでした。三つ全部をそろえた器が、目の前に無かったからです」

森田さんは、退職後、この形の給水器を探した。
「私が作ったわけではありません。私が選んだだけです。だから、良いところも、足りないところも、言えます」



「ひとつ、正直に言っておきます。ポンプとフィルターのケースは、樹脂です。全部がステンレスではない。そこだけは、週に1回、水ですすいでください」
| 猫の口がふれる面 | 304ステンレス(お皿・蛇口) |
|---|---|
| ろ過 | 4層のフィルター |
| 容量 | 2.2L |
| 部品 | 4つ(工具不要) |
| 音 | 約30dB |
| 電源 | ACアダプター |
| お手入れ | お皿と蛇口は食洗機可/ポンプとフィルターケースは水洗い |

「給水器で、病気が治るわけではありません」と森田さんは言った。
「治療は、やめないでください。これは、毎日の水の話です。毎日の水は、治療の土台なんです」

「1日目は、何も起きません」と森田さんは言った。
「近づきもしない子が多い。2日目も、遠くから見ているだけ。そこでやめないでください。3日目に、自分から飲みに来る子が多いんです」
「猫は、新しい物を警戒します。いきなり置き場所まで変えると、二重に警戒する。だから、場所は変えない。器だけ隣に足す。水の音に慣れるまで、2〜3日かかる子もいます」
「それと、最初の1週間は、正面の窓を毎朝見てください。朝入れた水が、夜にどれだけ減っているか。それが、あの子が飲んだかどうかの一番分かりやすい目印です」
私たちは森田さんに頼んで、通販で買える猫の水の器を、型ごとに比べてもらった。
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| プラの給水器 | 陶器のボウル | ステンレスのボウル | ニャクア | |
|---|---|---|---|---|
| ①器そのものが清潔 | ✕ 傷がつく | ○ | ○ | ○ 304ステンレス |
| ②ろ過され続ける | ○ | ✕ | ✕ | ○ 4層 |
| ③水が流れ続ける | ○ | ✕ | ✕ | ○ 蛇口の形 |
| 小川の三条件 | 2/3 | 1/3 | 1/3 | 3/3 |
| 値段(目安) | ¥3,000〜5,000 | ¥1,000〜3,000 | ¥1,000〜2,000 | ¥12,000 |
「プラスチックの給水器は、ニャクアより7千円ほど安い。でも、1年で買い替えて、ぬめりに毎週悩んで、それでも猫が飲まなかったら。安い方が、高くつく」
私たちが話を聞いた飼い主さんの中には、4千円の給水器を2年で3台買い替えた人もいた。フィルター代を足すと、2年で2万円を超えていた。「それでも、猫は蛇口で待っていました」
大きな変化の話より、毎日の中で「変わったこと」を聞いた。

★★★★★ 購入者の声
「病院で『もっと水を飲ませて』と言われて替えました。流れる水だと自分から寄っていくので、飲んでる姿を見る回数が増えました。」
63歳・2匹

★★★★★ 購入者の声
「最初の2日は遠くから見てるだけで、正直失敗したかと。3日目に自分から飲みに来て、今は前の器を片づけました。」
34歳・キジ白3歳

★★★★☆ 購入者の声
「全部ステンレスだと思ってたらポンプとフィルターのケースは樹脂でした。ただ書いてある通りで、そこだけ週1で洗えば気になりません。正直に書いてあるのが逆に信用できました。」
56歳・三毛10歳
※個人の感想であり、効果効能を保証するものではありません
「期待させて、3日でやめられるのが、一番もったいないんです」
「給水器を買って、1日で『うちの子は使わない』と片づけてしまう飼い主さんを、たくさん見てきました。猫にとって、3日はまだ様子見の途中です。だから私は、最初にはっきり言うようにしているんです。すぐには、変わりません、と」
置いてからの目安
1日目 ── 近づかない。これが普通
2〜3日目 ── 遠くから見る。3日目に自分から飲む子が多い
1〜2週目 ── 蛇口の前で待つ回数が減る。窓で水の減りが分かる
3〜6週目 ── 前の器を片づけられる
「2匹いるおうち、1階と2階があるおうちは、1台で判断しないでください。猫は、自分の居場所の近くの水を飲みます。2か所に置いて、初めて分かることがあります」
私たちは森田さんに、腎臓の治療が続いた時にかかるお金を計算してもらった。
| 目安 | |
|---|---|
| 通院1回(平均) | 9,329円 |
| 1年の通院回数(平均) | 15.2回 |
| 皮下点滴1回(中央値) | 2,500円 |
| 腎臓の療法食(4kgの猫) | 月 約4,300円 |
| 入院1回(平均) | 69,003円 |
| 慢性腎臓病の1年間の診療費(平均) | 272,598円 |
「ニャクアは、本体を3年、フィルターを4か月で見れば、1日およそ52円。缶コーヒー半分より少ない」

「値段を聞かれると、私はこう答えます。高いのは、器じゃない。器のせいで、飲まれなかった水の方です」
森田さんは、療法食と点滴を否定しているわけではない、と何度も念を押した。
「なってしまったら、治療は要ります。私が言いたいのは、その手前の話です。毎日の水を、猫が飲める形にしておく。それは、治療よりずっと安くて、ずっと早く始められる」
「1日52円で、あの子が自分から水を飲む毎日と、年に27万円かけて、飲めなかった水を針で入れる毎日。どちらを先に選ぶかは、飼い主さんが決めることです」
ニャクアを森田さんが紹介するのは、この記事だけだ、と言う。
「売るのは、私の仕事ではありません。器の話を、診察室でできなかった。それを言いたかっただけです」
「診察室では、時間がありません。診断して、薬を出して、次の子。器の話をする時間は、どこの科の担当でもなかった。誰かが隠していたわけじゃない。ただ、その話をする場所が、診察室に無かったんです」
「退職して、やっと言えます。猫が水を飲まないのは、飼い主さんのせいじゃない。器のせいのことがある。それだけは、知っておいてほしいんです」

ニャクアには、30日間の返金保証が付いている。猫が使わなかったら、理由は問わない。本体には365日の製品保証も付く。
「3日、1週間、いつもの場所で試してから決めてください。失うのは、送り返す手間だけです」
「猫には、好みがあります。三つの条件をそろえても、飲まない子はいるかもしれない。だから、試してから決めればいい。合わなかった時に、飼い主さんが損をしない形になっているなら、私は勧められます」
「様子を見ましょう」と言われ続けた猫の水に、薬でも療法食でもない、三つ目の答えがある。そういう話を、私たちは1年かけて追ってきた。
取材の最後に、私たちは森田さんに聞いた。今、器の水が減らない猫の飼い主さんに、ひとつだけ言うとしたら何か。
森田さんは、少し考えてから答えた。
「明日の朝、器の縁を、指でなぞってみてください」
ぬるっとしたら、それが答えだ、と。
森田さんの話で、私たちが一番引っかかったのは、この言葉だった。
「飼い主さんは、洗い方を責める。違うんです。器が、そういう作りなんです」

器の水が減らないなら、水だけを見ないでほしい。
器そのものが清潔か。ろ過され続けているか。流れ続けているか。
その三つが、あなたのいない昼間も、残っているか。
追伸1 2匹のおうち、1階と2階があるおうちは、2台セット(1台あたり¥8,900)が選ばれています。
追伸2 道は2つです。今の器のままで、次の健診を待つか。三つの条件がそろった器を、30日だけ、あの子の前に置いてみるか。
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費用=アニコム損保『家庭どうぶつ白書』2017年度契約(平均)/日本獣医師会 料金実態調査 令和5年(中央値)/療法食=価格.com最安(2026-09)から編集部が計算